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わからないことを分からないまま書きたい

デザイン思考のアルファ、そしてオメガ―彼らは何に「共感」しているか

はじめに

デザイン思考という言葉がいち時期流行った。今はある程度定着したのだと信じている。

何をするのかというと、大筋はこんな感じ。

「観察から洞察を得て、仮説を作り、プロトタイプを作って、それを検証し、試行錯誤を繰り返して改善を重ねながらモノ(製品/サービス)を創り出す」創造的なプロセス

0から1を創り出すデザイン思考 ― 新たなイノベーション創出手法 - Build Insider

プロセスで分けるとこのようになる。
Step1:共感(Empathize)
Step2:問題定義(Define)
Step3:創造(Ideate)
Step4:プロトタイプ(Prototype)
Step5:テスト(Test)

3-5はリーン・スタートアップが専門にしている。

最低限のコストと短いサイクルで仮説の構築と検証を繰り返しながら、市場やユーザーのニーズを探り当てていくのが特徴です。

リーン・スタートアップ(リーン スタートアップ)とは - コトバンク

また、問題定義はどんな問題解決でも必要になる。
だから、デザイン思考の特徴は「共感する」ことだといえる。

デザイン思考のアルファ―共感の分析

まずはこの共感を考える。

what 共感とは何か
who 誰に共感するか
where どこで共感するか
when いつ共感するか
why なぜ共感するか
how どのように共感するか

共感とは何か、なぜ共感なのか―乗り越えようとしているもの

では、共感とは何だろうか。それを考えるにはデザイン思考は何を乗り越えようとしているのかを考えるのがよい。

デザイン思考の前にあった、私たちにお馴染みの問題解決プロセスは論理的思考によるものだ。
論理は前提の上に構築される。だから、論理的思考を行うためには整理された前提、つまりは現状に対するクリアな認識が必要になる。
ここに論理的思考の限界がある。論理的思考は前提を整えることが出来ない。そこには別のアプローチが必要になる。
従来は前提の整理を勘に頼るなどすることが多かった。「勘・経験・度胸」の頭文字をとってKKDなどと呼ばれることもある。
デザイン思考はこれを体系化しようとするものだ。そのキーワードが共感になる。

だから、共感は必ずしも論理的に説明されない。そこでは観察者の主観が入る余地がある。

正しいデータが得られれば、素晴らしい製品、デザインをつくり出すことが可能なのです。そして最も信憑性があり、出所が明確なデータは自分の経験です。

デザイン思考ではなぜ「共感的経験」を大切にするのか ヤン・チップチェイス氏に聞く「デザイン・リサーチとは何か」(後編) | DHBRインタビュー|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

そして、共感は多数の観察者によってもたらされる。

典型的なチーム編成は、デザイン・リサーチの担当者、ユーザー・エクスペリエンスの担当者、ストラテジスト、グラフィック・デザイナー、ドメイン・エキスパートといった構成です。先ほど申し上げた通り、センス・メーキングを行ううえでもチームにおける多様性は重要な要素です。またクライアントにチームに入ってもらうこともあります。

デザイン思考ではなぜ「共感的経験」を大切にするのか ヤン・チップチェイス氏に聞く「デザイン・リサーチとは何か」(後編) | DHBRインタビュー|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

主観でも客観的なデータでも、とにかく観察によって得られた結果を集めて複数の目で吟味する。これが共感だ。

誰に、どこで共感するか―知ろうとしていること

共感は何かを観察することで得られる。では、観察は何を対象に行われるだろうか。

共感段階では、目に見える行動や言動だけではなく、その背景にある心情や価値観に近づくことが重要となる。実際には、異なる専門性を有する4~5名のチームを作り、想定されるユーザーのもとへフィールドワークを実施する。

0から1を創り出すデザイン思考 ― 新たなイノベーション創出手法 - Build Insider

前提の把握には、データからの論理的分析では足りない。
実際に顧客としようとしている対象の生活に飛び込んで、そこにある問題を拾ってくることが重要になる。
だから、前提の把握のためによくフィールドワークやインタビューが使われる。
実際に顧客が生活している場面で、自らが顧客そのものとなってその生活を観察する。

いつ、どのように共感するか―共感の作法

このようにして、共感の素材を集めてくる。そして、それらをひとつの共感、今後の活動の基礎となる認識へまとめあげる。
だから、共感は観察がひと通り終わってからなされる。ここでは論理的な考察ではなく直観的な認識が求められる。
共感の構築にあたってはブレインストーミングなど、発想を絞り出す技法が用いられる*1

デザイン思考のオメガ―デザイン思考の目指すところ、その境界

このように共感を得ることがデザイン思考をその他の思考法から区別するメルクマールになる。
ここにデザイン思考のゴールと、そしてその境界が現れる。

デザイン思考の目指すところは、顧客の真のニーズ、論理的な分析では拾いきれないニーズを認識することだ。
実際の生活でどのような問題を抱えているか、その問題解決をスマートに解決するのは何か。これを考えていく。
だから、デザイン思考は顧客の機能に着目する。顧客がその機能を発揮するのを阻害するものは何か。それを取り除くにはどうすればよいか。これを考えていく。

だから、デザイン思考は「そうでしかあり得ない」に到達することはない。機能は代替可能性のことだからだ。そして、デザイン思考はそれを目的としていない。この意味で、デザイン思考は従来の思考の延長にある。
そこにデザイン思考の境界がある。

でも、「こうでしかあり得ない」という生活を送ることが消費を乗り越えた生活のようにも思える。
どうすればいいかという具体的なアイデアはないのでいちゃもんに過ぎないのだけれど、たとえどんな新製品が来てもその商品には敵わない、というのは生産者が本当に目指すところではないだろうか。

*1:なお、ブレストはデザイン思考のどこかしこで現れる。論理的思考によらないので、直観を絞り出していく必要があるからだ