統計的差別の分析と対策―多様性の変換、市場の外でのあり方
はじめに
以前、ダイバーシティの類型について書いた。tsukaki1990.hatenablog.com
そこでは多様性を3つの類型に分けて、それぞれの内容を考えた。
今回は類型のあいだの関わり方について考えてみる。
具体的な問いとしては、「差別のない多様性は実現できるのか?」というものになる。
機能の難しさ=使ってみないとわからない
機能的多様性、典型例としては企業の成長のための多様性は難しさを抱えている。
機能における多様性とは、アウトプットの多様性のことだ。
同じインプットに触れたときにどれだけ幅のあるアウトプットが出せるか。この点での多様性が求められる。
でも、どのようなアウトプットが出るのかは実際にやってみないと分からない。
私たちはインプットを認知作用によって翻訳して、その内容にしたがってアウトプットを出している。翻訳の過程は観察できないし、翻訳している当の本人にも仕組みが分からない。
結果は分からないけれど、明らかなのは何もしなけれ多様性は実現できないということだ。
これは宝くじとまったく同じことだ。宝くじも当たるかどうか分からないけれど、買わなければ当たらない。
多様性を準備することは賭けなのだ。
確率としての類的多様性
だから、ここで確率が登場する。
どのような人材からどのようなアウトプットが出るのか、その確からしさを検討することになる。
観察可能な性質からどのようなアウトプットが出そうか当たりをつけ、その期待値の多様性をもって実際の多様性の代替とする。
機能は予測される。しかし何によって?類的な属性によってだ。
ここで、機能的多様性は類的多様性に変換される。
「多様なバックグラウンドを持った人材を集める」ことのもつ意味は、確率論的なものだ。
背景が違えば翻訳の過程が違う確率が高い。だから、多様性が確保できる見込みが立つ。
企業は属性に関心をもつようになる。でも、それは求める多様性の幅に応じてのことだ。
たとえば「どれだけ高品質なコーヒーを作るか」を議論するときに思想家は必要ない。その多様性には価値がない。
求める幅において、多様性を実現できそうな属性は何か。企業の関心はそこへ向かう。
企業は社会ではない
だから、企業において社会的包摂が進まないことを嘆く理由はない。
そもそも企業が存在しているのは取引費用の削減のためであって、あくまで根本は市場メカニズムにある。
色んな人の意見をその都度市場取引を通じて手に入れるのは手間だから、予め雇い入れているだけのことなのだ。
企業の振舞いに現れる類的多様性は、機能的多様性の変換としての意味しかもっていない。
もっと広く言えば、市場価値のない属性は市場メカニズムのもとで尊重される理由がない。
だから、たとえば女性の雇用を考えることは難しい。
女性であることがそうでない場合と機能における違いがあると見込まれれば、企業が女性を雇い入れる利益がある。
一方で、女性を雇用するコストとメリットの引き算の値が男性のそれを下回ると想定されれば、企業には女性を雇い入れる利益がなくなってしまう。
これは統計的差別と呼ばれる。しかし、市場においてこの帰結は避けられない。
倫理に訴えても効果がない。市場は倫理ではなく利益で動くから。ルールの違うものは効果がない。
自分を上げるか、それとも
市場においてシェアが少ないことには理由がある。シェアを増やすには理由を覆していく必要がある。
覆し方には2つの類型があり、戦術としては4パターンある。
- 自分を雇うことでの利益を大きくする
- 自分以外の者を雇うことでの利益を小さくする
- 多様性メリットへの貢献を小さくする
- 雇用コストを大きくする
自分の雇用コストを小さくしようとすると負担になるから、多様性メリットを大きくするのがよいように思う。
また、競争相手の良さを潰すのが気になるならコストを大きくするのがよい。
雇用の本質は自らの時間と機能を売ることにある。
だから、雇用のあり方が決まると市場の外でのあり方が決まるし、逆もまたそうだ。
市場の外で自らの機能を増やすこと、あるいは競争相手の市場の外でのあり方を変えていくこと。
自らの価値を相対的に高める戦略を練らないと、なかなか市場での位置づけは変わっていかない。
この記事を書いた理由
私は精神疾患を患っている。そのことの多様性メリットはなく、雇用コストだけが大きくなってしまった。
それでも市場において自分を売りたいと思っているから、そのための整理のために書いた。
厳しい労働市場を生きていくのは、やっぱり大変なことだと思った。
参考図書
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いい値段がするので図書館で借りればいいと思う。